国際開発協力は、援助する側とされる側、便益を受ける側と費用を負担する側など、立場によって異なる課題に直面し、異なる利害関係や認識をもった多様なステークホルダー達によって織りなされる営みである。よって、国際開発協力の事業を推進するには、自分とは異なる立場の「他者」が直面する制約条件や立場などを理解する力、想像する力が不可欠となる。こうした力は、国際開発協力の分野でキャリア形成をする諸氏のみならず、現代の世界を生きていく上で必要なリテラシーといえるであろう。本講座は、国際開発協力という事象を切り口として、多様な「当事者」の視点に立って縦横無尽に捉えることができる「複眼的な視点」を獲得することを目的とするものである。そのための仕掛けとして本講座は、一方的な講義ではなくワークショップの形式をとり、特定の「現場」において実際に発生している個別のケースを題材として、現場ではどのようなことが起こりうるのか、どこにボトルネックがあるのか、「現場から考える」シミュレーションを行う。 具体的な「現場」としては、多様な開発課題を抱えた実在の開発途上国が設定される。本年度の舞台となる具体的な途上国の現場は、昨年度に引き続きモザンビークである (なお、これまでは、ウガンダ、バングラデシュ、スリランカをフィールドとしてきた)。受講生は、モザンビークが実際に直面している課題に向き合い、その課題を乗り越えるためのあらゆるリソースを駆使して、課題に対するソリューションとなりえる具体的な「事業企画案(プロポーザル)」を立案するプロセスに参画することとなる。作成された事業企画案は、最終報告会において実際の国際協力機構(JICA)モザンビーク事務所の職員らに査定され、評価、講評される。審査の結果、優れた事業企画案は、最終審査(ピッチ)を経て、現実のODA事業案として本格検討される可能性もある。 事業案は、モザンビークが直面する無数の課題のなかかから、JICAモザンビーク事務所が直近で取り組もうとしている四つの重点課題のなかから選択して作成される。各課題を解決するための方策についてはすでにJICAモザンビーク事務所が仮説的検討しており、提示された複数の仮説のなかから有効なソリューションを見つける検証作業(どのようなリソースをマッチされることで実現可能となるか等)を行っていくことが期待される。
JICAモザンビーク事務所が提示する重点課題およびその解決に向けた仮説 課題1.廃棄物(特にマプト首都圏の有機ごみ、産業ごみ)の増大と廃棄物処理にかかる行政コストの増大 解決に向けた仮説①ごみ減量に向けた有機ごみのコンポスト化、仮説②ごみ減量に向けたリサイクルの推進、リサイクル産業誘致、仮説③ごみ処理にかかる行政コスト軽減 課題2.フルーツの生産ロス モザンビーク産フルーツは生産地でのロスが30-50%、市場に届くまでに更に20%近くがロスしている現状 解決に向けた仮説①需要に合わせた生産管理の導入、仮説②保存を効かせるための加工処理機材の導入(乾燥、ジュース化等)、仮説③農民組織化による品質向上、仮説④消費者マーケティングを通じた商品プロモによる需要側の喚起 課題3.教育の質に関する課題、特に学校に通っていても生徒が主体的に学んでいないことが深刻な問題。国語・算数のような基礎的な学力スキルも十分でない中で、新カリキュラムでは(世界の潮流でもある21世紀スキルとも言われる)非認知スキル(思考力、判断力、表現力等)を含めた包括的な学びを目指しているが、実施体制が整っていない 仮説①学びに焦点を置いた教育の質改善に向けた、非認知スキルの導入・実践と教育のあり方の見直し、仮説②包括的な学び促進のために学びのプロセスをモニターしてサポートをするための形成的評価(formative assessment)とその体制強化 課題4.北部州カーボデルガード州の復興支援 テロ活動により荒廃した同州の復興につき、他ドナー作成レポート等を読み解き、日本の技術、知見を活用した復興事業の形成を提案する。 本課題については、仮説そのものの構築から考案することが期待される。
事業案の作成は、それぞれの課題ごとに数人のメンバーからなるグループを形成し、取り組むこととなる。よって講座は、数人程度の小グループを最少単位としたグループワークを中心に展開されるが、他のグループとの情報共有やコラボレーションも推奨される。 このように、本講座で行う演習は、ある意味で、開発途上国との開発協力事業を担うJICA職員の立場に立った(昨年度までは、開発途上国の政策立案者に扮した)ロールプレイという側面をもつが、実際の政策への打ち込みの可能性も伴うという意味で、極めて実践的な(本番に近い)演習となる。 最終事業企画案の完成およびプレゼンテーションという最終成果に向けて、10月から数次の全体ワークショップ(原則土曜日の午後に開催)によって事業案作成に必要な知見やスキルのインプットを行ってゆくが、その後はグループ内およびグループ間でアイディアを練り、実現可能性をもった事業案として形づくってゆく。その過程で、教員やJICAスタッフ、学生メンタ等によるアドバイスやサポートもなされる。 なお、本講座は、国際協力銀行(JBIC)および国際協力機構(JICA)において実務経験のある専任教員が、国際開発協力に関する実務経験を生かしつつ、JICAの全面的な支援によって実現する講座である。
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1.日時: 全体ワークショップは10週分あり、下記の通り。 ①10月14日、②10月21日、③10月28日、④11月04日、⑤11月11日、⑥11月18日、⑦11月25日、⑧12月02日、⑨12月9日、⑩12月16日 時間は、いずれも土曜日の午後13時〜18時 (※但し、初回の10月14日のみ午前10時〜18時となるので要注意)
2.会場: JICA横浜センターおよび横浜国立大学 受講生は、横浜国立大学/JICA横浜センター(週によって異なるため下記スケジュール表を確認のこと)に来場しての対面受講。JICAモザンビーク事務所とはオンラインで繋いで実施。
3.プログラム: スケジュールの流れは以下の通り(各回のワークショップの内容について変更の可能性はあり)
(1)講座への登録:〜10月11日17時締め切り 「本学の履修希望学生も含めた」全ての参加希望者は、下記のJICAの応募フォームからの登録が必要。
https://forms.gle/XAujK2W6p1qF11ac8
*大学の履修登録締めきりよりも早いので要注意。
(2)選考:〜10月12日 全ての参加者について提出された応募動機に基づいて選考が行われる。受講可否の案内は10月12日17時までにメールで通知される。
(3)講座実施:10月14日〜12月16日 ※講座開始より前に、今後読んでおくべき課題文献の一部が提示される。
第1週 午前の部 10月14日(土) 午前の部: オープニングセッション 講座全体のガイダンス、各種ツールやアプリの使い方の説明、チームビルディング 会場: JICA横浜センター
午後の部 10月14日(土) 午後の部: 対象国の課題を把握する モザンビーク全体の課題およびJICA事務所が着目している特定課題とその背景の説明をグループに分かれて検討 会場: JICA横浜センター
第2週 10月21日(土): 課題解決への道筋の描き方を学ぶ 個々の課題を解決する方策についてのいくつかのオプションおよびリソースについて検討 会場: JICA横浜センター
第3週 10月28日(土): 事業計画の作り方を学ぶ プロジェクトを立案するために不可欠な技法を修得 会場: JICA横浜センター
第4週 11月04日(土): 事業計画の素案をつくってみる 各チームが作成してきた素案をみんなで揉んでゆく 会場: JICA横浜センター
第5週 11月11日(土): フィールドに出て生の情報を獲ってくる 課題解決に不可欠と思われるリソースとしての企業やNGO、研究者などを訪問する 会場: 各チームのフィールドにて
第6週 11月18日(土): 中間発表会 JICAに向けてここまでの成果を報告し、フィードバックをもらう 会場: JICA横浜センター
第7週 11月25日(土): 事業計画案を改善する 中間報告でもらったコメントを受けて対処策を練り、講座のメンバーどうしでピアレビュー 会場: 横浜国立大学
第8週 12月02日(土): 事業計画案を完成させる 仕上げてきた事業計画を講座のメンバーどうしでピアレビュー 会場: 横浜国立大学
第9週 12月09日(土): 最終発表会 JICAへ向けてODA事業計画案のプレゼン、審査。発表会の様子はリアルタイム配信にて一般に公開の予定 会場: 横浜国立大学(仮)
12月13日(水)17時〜(日本時間) 【仮】ピッチ(選抜グループのみ): 最終報告会で選抜されたグループのみがJICAモザンビーク事務所内で実施される英語でのピッチ(事業計画計画のプレゼンテーション)に臨むことができる。日程は選抜されるグループの数等によって変更される可能性あり。
第10週 12月16日(土) クロージングセッション 最終成果およびここまでの全行程の振り返り。振り返りにあたって、事前に振り返りのレポート(フォーマットは後に指定)の事前提出が求められる。
別途、参加者の要望等に応じて、自由参加のスピンオフ講座や交流会なども企画する予定。
4.フォローアップ期間:12月17日〜 受講生らの要望に応じて、フォローアップのためのスピンオフ講座や実践プロジェクトなどが企画される。過去の実績のうち、現在まで続いている取り組みとしては、国際開発に関する研究文献を輪読してゆく「国際開発アカデミア」、日本に来ている難民・避難民の学生の卒業後の就活を支援する「R-Navi」がある。
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1.本講座の参加者は、10月〜12月の土曜日(計10回の予定)に開催される全てのワークショップへの参加が義務づけられる。ワークショップへの無断欠席やグループワークへの不参加などによって、講座への参加資格を失い、JICAからの修了証書が発行されなくなる。 2.各週のワークショップとワークショップの合間の期間は、グループごとに独自の学習や準備を進めていくことが必須となっており、相当な時間を割くことが求められる。毎回のワークショップの前後で必要となる予習復習(事前準備や事後対応)のためには、実際のワークショップに参加している時間と同等程度かそれ以上の時間をかける必要があると考えられる。こうしたコミットができる学生のみの参加が求められる。 3.ホワイトボードアプリなどを用いての作業を行う場面が多いため、PCもしくはタブレット端末を準備し毎週持参できること。スマホのみでの受講は不可。
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現場からのニーズに対応できる魅力的な企画案を提示できるようになるまで、繰り返しアイディアを熟成してくことができる粘り強さ、マインドセットが形成される。
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特定の国の開発課題およびODAの仕組みについて最低限の知識を獲得した上で、国際開発協力の現場で起こっている事象を、(少なくとも担当した)特定の課題の観点から捉えることができるようになる。その上で、国際開発協力の現場で起こっている事象を、一元的な視点ではなく多角的な視点から捉えることができるようになり、国際開発協力のあり方をめぐって展開されているイシューに対して自ら判断を下すための軸をもつことができるようになる。
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所属グループにおける事業企画案形成への貢献(60%)、ワークショップや各種企画等におけるプログラム全体への貢献(20%)、振り返りのレポート(20%)に基づいて評価する。
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【成績評価の基準表】
秀(S) | 優(A) | 良(B) | 可(C) | 不可(F) |
履修目標を越えたレベルを達成している | 履修目標を達成している | 履修目標と到達目標の間にあるレベルを達成している | 到達目標を達成している | 到達目標を達成できていない |
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履修目標:授業で扱う内容(授業のねらい)を示す目標
到達目標:授業において最低限学生が身につける内容を示す目標
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【授業別ルーブリック】
評価項目 | 評価基準 |
期待している以上である | 十分に満足できる(履修目標) | やや努力を要する | 努力を要する(到達目標) | 相当の努力を要する |
個別学習 | プレゼンの内容が講座全体の進行に決定的な効果を及ぼす | 割り当てられたアサインメントの範囲を超えて質の高いプレゼンをする | 割り当てられたアサインメントに対して質の高いプレゼンをする | 割り当てられたアサインメントをこなす | 割り当てられたアサインメントを怠る |
グループワーク | ワークショップの合意形成に多大な貢献がなされた | ワークショップのプロセスで議論をリードできる | ワークショップのプロセスで積極的な役割を果たせる | ワークショップのプロセスに参画できる | ワークショップのプロセスに参画できていない |
成果物 | 実務で通用しうるレベルの提案がなされる | モザンビークのケースを超えたより普遍的な提案がなされる | ワークショップの成果を踏まえた上で、実践的な提案ができる | ワークショップの成果を踏まえた提案ができる | ワークショップの成果と無関係の提案がなされる |
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1.本講座は、一方的な講義ではなくワークショップの形式をとる。実在する特定の国をケース国とし、その抱える開発課題に、その当事者として、それぞれのセクターの観点から取り組み、各種のリソースを活用してソリューションを考案してゆくという、グループワークを中心としたものとなる。 2.グループワークの実施に際しては、学生や講座OBのメンターがつき、必要に応じてアドバイスをもらえる。 3.本講座はすべて「対面」で実施だが、ワークショップおよび個々のグループワークにおけるコミュニケーションのツールとしてはZoom(オーラル)およびSlack(テキスト)、ブレインストーミングのツールとしてはMiro、文書管理のツールとしてはGoogleドライブ、といったアプリケーションを活用する。
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9784864294843
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開発援助がつくる社会生活 = Living With Aid : 現場からのプロジェクト診断
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青山和佳, 受田宏之, 小林誉明 編著,初鹿野直美, 東方孝之, 宮地隆廣 著,青山, 和佳,受田, 宏之,小林, 誉明,初鹿野, 直美,東方, 孝之,宮地, 隆廣,
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大学教育出版
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2017
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ここに挙げた教科書は、複眼的な視点をもつことの重要性を提起した、講師らによる編著作である。講座のなかで直接的に使用するわけではないが、本講座で伝えたいエッセンスが詰まっているものなので、一度は手にとってみることをお薦めする。
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ワークショップのなかで必要に応じて、全員が共通で読むべき基本的な文献および関連文献を紹介する。
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履修希望者は、10月11日17時までに以下の応募サイトより所定の申し込み手続にしたがって参加申し込みを行うこと。提出された応募書類を審査した上で、履修者の選抜を行う。(本学の履修登録システムからは登録できないので要注意。単位取得を必要としない聴講生の場合も同じ手続が必要)。
https://forms.gle/XAujK2W6p1qF11ac8
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ODA, 援助政策, 開発計画, 開発学, JICA, 開発課題, パートナーシップ、事業案形成、プロジェクト、政策提言、ピッチ、コンペ
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国際開発協力の現場の風にどっぷり浸かる密度の濃い時間を過ごせることを保証します。国際開発協力の世界に初めて足を踏み入れる学生も、すでに知識や経験を積み重ねた上級者のどちらも歓迎します。将来において海外での活躍を考えている諸氏の参加を待っています。本講座に関する問い合わせは、担当教員の小林誉明准教授(t-kobayashi@ynu.ac.jp)まで。
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