国際開発協力は、援助する側とされる側、便益を受ける側と費用を負担する側など、立場によって異なる課題に直面し、異なる利害関係や認識をもった多様なステークホルダー達によって織りなされる営みである。よって、国際開発協力の事業を推進するには、自分とは異なる立場の「他者」が直面する制約条件や立場などを理解する力、想像する力が不可欠となる。こうした力は、国際開発協力の分野でキャリア形成をする諸氏のみならず、現代の世界を生きていく上で必要なリテラシーといえるであろう。本講座は、国際開発協力という事象を切り口として、多様な「当事者」の視点に立って縦横無尽に捉えることができる「複眼的な視点」を獲得することを目的とするものである。そのための仕掛けとして本講座は、一方的な講義ではなくワークショップの形式をとり、特定の「現場」において実際に発生している個別のケースを題材として、現場ではどのようなことが起こりうるのか、どこにボトルネックがあるのか、「現場から考える」シミュレーションを行う。JICA、横浜市、YUSA(A(Yokohama Urban Solution Alliance)との連携の下に実施されるプログラムとなる。
具体的な「現場」としては、多様な開発課題を抱えた実在の開発途上国が設定される。本年度の舞台となる具体的な途上国の現場は、バングラデシュである (なお、これまでは、ウガンダ、バングラデシュ、スリランカ、モザンビークをフィールドとしてきた)。受講生は、JICAバングラデシュ事務所から提供される現場で直面している生の問題を知り、教員から提供される課題を発見し分析する方法を習得し、YUSAや横浜市から提供される企業のネットワークをはじめとした各種リソースを活用して、課題に対するソリューションとなりえる具体的な「事業企画案(プロポーザル)」を立案するプロセスに参画することとなる。作成された事業企画案は、中間報告会および最終報告会において実際の国際協力機構(JICA)や民間企業、NGO等、関係者の前でプレゼンテーションを行い、将来的な事業実現化へ向けての足がかりになることを目指す。
事業案の作成は、それぞれの分野(本年は、「教育」、「廃棄物(ゴミ)」、「都市交通」の3つ)ごとに数人のメンバーからなるグループを形成し、取り組むこととなる。よって講座は、数人程度の小グループを最少単位としたグループワークを中心に展開されるが、他のグループとの情報共有やコラボレーションも推奨される。
最終事業企画案の完成およびプレゼンテーションという最終成果に向けて、10月から数次の全体ワークショップ(原則土曜日の午後に開催)によって事業案作成に必要な知見やスキルのインプットを行ってゆくが、その後はグループ内およびグループ間でアイディアを練り、事業案の構想に取りかかる。その過程で、教員やJICAスタッフ、学生メンタ等によるアドバイスやサポートもなされる。
なお、本講座は、国際協力銀行(JBIC)および国際協力機構(JICA)において実務経験のある専任教員が、国際開発協力に関する実務経験を生かしつつ、JICAの全面的な支援によって実現する講座である。
|
|
|
1.日時: 10月12日~12月14日の間の土曜日に計10回実施(これに加え正規日程外のグループ活動があります) 時間は、いずれも土曜日の午後13時〜17時30分 (※但し、初回の10月12日のみ午前10時〜17時30分となるので要注意)
2.会場:「GALERIO(ガレリオ)」(横浜国際協力センター6階) Y-PORTセンター公民連携オフィス 〒220-0012 横浜市西区みなとみらい一丁目1番1号 横浜国際協力センター6階 (※11月9日のみは各グループにて必要な場所で実施)
3.プログラム: スケジュールの流れは以下の通り(各回のワークショップの内容について変更の可能性はあり)
(1)講座への登録:〜10月11日(金)17時締め切り 「本学の履修希望学生も含めた」全ての参加希望者は専用の応募フォームからの登録が必要。 https://forms.gle/e6egYAaAMD2SsDJh7 ※大学の履修登録締めきりよりも早いので要注意。
(2)選考:〜10月11日(金)17時過ぎ迄 全ての参加者について提出された応募動機に基づいて選考が行われる。募集締め切り日を待たず、その週に応募いただいた学生について翌週金曜日までに順次受講可否を通知する。
(3)講座実施:10月12日〜12月14日 第1週 10月12日(土) 午前の部: オリエンテーション、チームビルディング 午前の部: バングラデシュの開発課題とJICAの取り組みを知る 第2週 10月19日(土): 課題への対処の筋を描く手法を修得する 第3週 10月26日(土): 優先分野の課題を掘り下げる 第4週 11月02日(土): 事業計画の素案をつくってみる 第5週 11月09日(土): フィールドに出て生の情報を獲ってくる(会場: 各チームのフィールドにて) 第6週 11月16日(土): 中間発表会 第7週 11月23日(土): 事業計画案を改善する 第8週 11月30日(土): 事業計画案を完成させる 第9週 12月07日(土): 最終発表会 第10週 12月14日(土) 総合討論、振り返り、クロージングセッション
※上記に加えて正規日程外のグループ活動あり。 ※別途、参加者の要望等に応じて、自由参加のスピンオフ講座や交流会なども企画する予定。
(4)フォローアップ期間:12月14日〜 受講生らの要望に応じて、フォローアップのためのスピンオフ講座や実践プロジェクトなどが企画される。過去の実績のうち、現在まで続いている取り組みとしては、国際開発に関する研究文献を輪読してゆく「国際開発アカデミア」、日本に来ている難民・避難民の学生の卒業後の就活を支援する「R-Navi」がある。
4.取り扱う分野: 本年度はJICAバングラデシュ事務所が取り組んでいる分野のなかから三つの重点分野をと りあげる。分野ごとに、JICA が着目している課題、JICA のこれまでの取り組みについての概略、参考資料をピックアップしおくので、 応募にあたっては、各分野の参考資料を参照の上で、取り組みたい分野を選択すること。
(1)教育 課題:初等教育においては教育へのアクセスは大きく改善したものの、学習到達度等の質的側面の改善、教員の数と指導能力不足が課題。中等教育、技術教育においては、未だアクセスやジェンダー格差の課題もあり、同様に教員と教育の質の向上も必要。
取り組み:技術協力事業や専門家派遣等による、主に理数科におけるカリキュラムや教科書改訂支援、教員向け研修、実習用機材の供与等を通じた協力を実施。
参考資料等: ①バングラデシュ国小学校理数科教育強化計画フェーズ2 プロジェクト事業完了報告書 JICA報告書PDF版 (JICA Report PDF) https://libopac.jica.go.jp/images/report/P1000034290.html ②バングラデシュ人民共和国中等教育セクター情報収集・確認調査ファイナル・レポート JICA報告書PDF版 (JICA Report PDF) https://libopac.jica.go.jp/images/report/P1000050639.html ③バングラデシュ国産業人材のニーズに基づく技術教育改善プロジェクト(第2期)事業完了報告書 JICA報告書PDF版 (JICA Report PDF) https://libopac.jica.go.jp/images/report/P1000052951.html ④ 【バングラデシュ・教育】【JICA-バングラデシュ50周年:教育】質の高い教育で輝く子供たち (youtube.com) https://www.youtube.com/watch?v=TtwQaCFBXTM
(2)廃棄物(ゴミ) 課題:バングラデシュでは、急速な都市人口増加に伴う固形廃棄物(ごみ)の増加に対して、地方自治体による収集・処分が追いついておらず、さまざまな環境汚染(悪臭・害虫発生・水質汚濁・大気汚染等)が起こっている。地方自治体によるごみの収集・処分における具体的な課題としては、中長期的な計画に基づいた収集・運搬・処分に関する資機材や施設の整備、地方自治体の体制強化(予算・人員の増加等)、ごみの減量化、住民の意識向上、有害廃棄物への対応等がある。
取り組み:JICAは、2003年から、ダッカ市を中心に、廃棄物管理の改善のために、技術協力や無償資金協力等を通じて、中長期計画策定、収集と運搬の改善、処分場の改善、住民参加促進、組織と財務の改善に協力してきた。今後、過去の協力の成果を生かしつつ、ダッカ市とチョットグラム市を対象にして、こうした点に関するさらなる取組に加えて、資源の効率的な利用促進(3R:リデゥース・リユース・リサイクル)を含めて、廃棄物管理の改善に協力する予定。
参考資料等: ①バングラデシュ人民共和国 南北ダッカ市及びチッタゴン市廃棄物管理能力強化プロジェクト事業完了報告書 libopac.jica.go.jp/images/report/12336376.pdf ②バングラデシュ人民共和国 南北ダッカ市の廃棄物焼却発電導入に係る情報収集・確認調査最終報告書 libopac.jica.go.jp/images/report/12364618.pdf ③『クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録』 - JICA緒方研究所 https://www.jica.go.jp/jica_ri/publication/projecthistory/ph_17.html ④【バングラデシュ・廃棄物管理】バングラデシュ・ダッカの廃棄物管理~JICAクリーン・シティ・イニシアティブ~ - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=bSRX4nbV5t0 ⑤【バングラデシュ・都市開発】巨大都市ダッカにおけるごみ収集・廃棄物処理の取り組み (youtube.com) https://www.youtube.com/watch?v=htjw4bKuix0 ⑥【バングラデシュ・都市開発】【JICA-バングラデシュ50周年:都市開発】クリーンダッカはこうして実現! (youtube.com) https://www.youtube.com/watch?v=-43iW8FxDSs
(3)都市交通 課題:バングラデシュの首都ダッカは、近年の急激な人口増加に伴う交通需要の増加に加え、自動車・バス・リキシャ(人力車)等の交通モードが混在する道路交通に依存していること等から、慢性的な交通渋滞や、車両の排気ガスによる大気汚染等が深刻な問題となっている。そのため、計画的な交通マネジメント、道路インフラ等の整備、公共交通の整備などを通じて、都市交通の状況を改善することが喫緊の課題となっている。
取り組み:JICAは、2000年代後半にダッカの都市交通プロジェクトの形成調査を開始してから、ダッカの都市交通戦略計画改訂、都市鉄道法策定、組織体制構築、都市鉄道(MRT)整備、都市交通マネジメント改善等に係る協力を行ってきている。近年では2022年12月にJICAの協力により同国初の都市鉄道となるダッカメトロ6号線が開通し、後続の1号線、5号北線等も計画・整備中。これら動きと連動し、公共交通を中心とした都市を目指す公共交通指向型開発(TOD)のための技術協力も実施・継続予定。
参考資料等: ①【バングラデシュ・運輸交通】【JICA-バングラデシュ50周年:運輸交通】MRT ダッカのライフライン - YouTube (※ダッカメトロ6号線開通前の動画。ダッカのイメージ、都市交通の課題、MRT事業の概況を把握するのに有用。最初の視聴を推奨) https://www.youtube.com/watch?v=BWIW1SSmVGg ②JICAの都市交通分野における取組(P1-P14の全体概況及びバングラデシュ関連部分) https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001732271.pdf ③ダッカ都市交通戦略計画改訂プロジェクト 最終報告書/要約 https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12268249.pdf ④MRT各事業の概要: 6号線:事業事前評価表 ダッカ都市交通整備事業(6号線)第五期 https://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/2021_BD-P119_1_s.pdf 1号線:事業事前評価表 ダッカ都市交通整備事業(1号線)第二期 https://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/2021_BD-P117_1_s.pdf 5号北線:事業事前評価表 ダッカ都市交通整備事業(5号線北路線)第二期 https://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/pdf/2022_BD-P121_1_s.pdf ⑤公共交通指向型開発(TOD):バングラデシュ国 ダッカ都市交通整備事業(TOD)準備調査最終報告書 バングラデシュ国 ダッカ都市交通整備事業(TOD)準備調査最終報告書. - (jica.go.jp) https://openjicareport.jica.go.jp/710/710/710_101_12324018.html
|
|
|
1.本講座の参加者は、10月〜12月の土曜日(計10回の予定)に開催される全てのワークショップへの参加が義務づけられる。ワークショップへの無断欠席やグループワークへの不参加などによって、講座への参加資格を失い、JICAからの修了証書が発行されなくなる。 2.各週のワークショップとワークショップの合間の期間は、グループごとに独自の学習や準備を進めていくことが必須となっており、相当な時間を割くことが求められる。毎回のワークショップの前後で必要となる予習復習(事前準備や事後対応)のためには、実際のワークショップに参加している時間と同等程度かそれ以上の時間をかける必要があると考えられる。こうしたコミットができる学生のみの参加が求められる。 3.ホワイトボードアプリなどを用いての作業を行う場面が多いため、PCもしくはタブレット端末を準備し毎週持参できること。スマホのみでの受講は不可。
|
|
|
現場からのニーズに対応できる魅力的な企画案を提示できるようになるまで、繰り返しアイディアを熟成してくことができる粘り強さ、マインドセットが形成される。
|
|
|
特定の国の開発課題およびODAの仕組みについて最低限の知識を獲得した上で、国際開発協力の現場で起こっている事象を、(少なくとも担当した)特定の課題の観点から捉えることができるようになる。その上で、国際開発協力の現場で起こっている事象を、一元的な視点ではなく多角的な視点から捉えることができるようになり、国際開発協力のあり方をめぐって展開されているイシューに対して自ら判断を下すための軸をもつことができるようになる。
|
|
|
所属グループにおける事業企画案形成への貢献(60%)、ワークショップや各種企画等におけるプログラム全体への貢献(20%)、振り返りのレポート(20%)に基づいて評価する。
|
|
|
【成績評価の基準表】
秀(S) | 優(A) | 良(B) | 可(C) | 不可(F) |
履修目標を越えたレベルを達成している | 履修目標を達成している | 履修目標と到達目標の間にあるレベルを達成している | 到達目標を達成している | 到達目標を達成できていない |
|
履修目標:授業で扱う内容(授業のねらい)を示す目標
到達目標:授業において最低限学生が身につける内容を示す目標
|
|
【授業別ルーブリック】
評価項目 | 評価基準 |
期待している以上である | 十分に満足できる(履修目標) | やや努力を要する | 努力を要する(到達目標) | 相当の努力を要する |
個別学習 | プレゼンの内容が講座全体の進行に決定的な効果を及ぼす | 割り当てられたアサインメントの範囲を超えて質の高いプレゼンをする | 割り当てられたアサインメントに対して質の高いプレゼンをする | 割り当てられたアサインメントをこなす | 割り当てられたアサインメントを怠る |
グループワーク | ワークショップの合意形成に多大な貢献がなされた | ワークショップのプロセスで議論をリードできる | ワークショップのプロセスで積極的な役割を果たせる | ワークショップのプロセスに参画できる | ワークショップのプロセスに参画できていない |
成果物 | 実務で通用しうるレベルの提案がなされる | 対象国のケースを超えたより普遍的な提案がなされる | ワークショップの成果を踏まえた上で、実践的な提案ができる | ワークショップの成果を踏まえた提案ができる | ワークショップの成果と無関係の提案がなされる |
|
|
|
1.本講座は、一方的な講義ではなくワークショップの形式をとる。実在する特定の国をケース国とし、その抱える開発課題に、その当事者として、それぞれのセクターの観点から取り組み、各種のリソースを活用してソリューションを考案してゆくという、グループワークを中心としたものとなる。 2.グループワークの実施に際しては、学生や講座OBのメンターがつき、必要に応じてアドバイスをもらえる。 3.本講座はすべて「対面」で実施だが、ワークショップおよび個々のグループワークにおけるコミュニケーションのツールとしてはZoom(オーラル)およびSlack(テキスト)、ブレインストーミングのツールとしてはMiro、文書管理のツールとしてはGoogleドライブ、といったアプリケーションを活用する。
|
|
|
|
|
9784864294843
|
|
開発援助がつくる社会生活 = Living With Aid : 現場からのプロジェクト診断
|
|
青山和佳, 受田宏之, 小林誉明 編著,初鹿野直美, 東方孝之, 宮地隆廣 著,青山, 和佳,受田, 宏之,小林, 誉明,初鹿野, 直美,東方, 孝之,宮地, 隆廣,
|
|
大学教育出版
|
|
2017
|
|
|
|
|
|
|
|
|
ここに挙げた教科書は、複眼的な視点をもつことの重要性を提起した、講師らによる編著作である。講座のなかで直接的に使用するわけではないが、本講座で伝えたいエッセンスが詰まっているものなので、一度は手にとってみることをお薦めする。
|
|
|
|
ワークショップのなかで必要に応じて、全員が共通で読むべき基本的な文献および関連文献を紹介する。
|
|
|
履修希望者は、10月11日(金)17時までに以下の応募サイトより所定の申し込み手続にしたがって参加申し込みを行うこと。提出された応募書類を審査した上で、履修者の選抜を行う。(本学の履修登録システムからは登録できないので要注意。単位取得を必要としない聴講生の場合も同じ手続が必要)。 https://forms.gle/e6egYAaAMD2SsDJh7
|
|
|
ODA, 援助政策, 開発計画, 開発学, JICA, 開発課題, パートナーシップ、事業案形成、プロジェクト、政策提言、ピッチ、コンペ
|
|
|
国際開発協力の現場の風にどっぷり浸かる密度の濃い時間を過ごせることを保証します。国際開発協力の世界に初めて足を踏み入れる学生も、すでに知識や経験を積み重ねた上級者のどちらも歓迎します。将来において海外での活躍を考えている諸氏の参加を待っています。本講座に関する問い合わせは、担当教員の小林誉明准教授(t-kobayashi@ynu.ac.jp)まで。
|
|
|
|
|
|